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事業拡大に向けた営業プロセス構造化と生成AIを活用した営業生産性向上検討
2020年10月の『2050年カーボンニュートラル宣言』以降、大企業では脱炭素への取り組みが進んでいますが、非上場の中小企業では、まだカーボンニュートラルへの対応に踏み切っていない企業も多くあります。TCSは、そのような中小企業に向けて太陽光パネルなどの最適な設備サービスを提案し、カーボンニュートラル社会の実現をめざしています。
2021年度からCRMを中心としたTCSのDX推進に伴走してきたNTTデータ。TCSの協力を得て、関東以外での太陽光発電設備の設置・販売(以下、太陽光設備サービス)事業拡大に向け、2025年1月から4月までの期間で、生成AIを活用して営業生産性向上の可能性を探るPoC(概念実証)を実施しました。
TCSの太陽光設備サービス事業開始当初の営業プロセスは、人数の限られた営業担当者で効率よく顧客へのアプローチを行うために、大きく3つのプロセスに分かれていました。
まず、事前に優先となるターゲットセグメントを決定。リストの中から太陽光設備を設置できる十分な建物や土地所有の有無、太陽光設備の設置状況といった状態を調査し、提案できない顧客を除外します。続いて、MAメール送信やDM郵送を経てインサイドセールスが絞られたリストの顧客に架電を行い、導入ニーズが確認できた顧客を営業担当者にトスアップ。最後に、営業担当者が全国各地に拠点を置く顧客のもとに足を運び、対面でニーズの深堀から提案までを行い受注につなげる、といった流れです。
しかし、提供パートナー企業からの紹介が成約につながりやすい一方で、営業活動を進めるうちに中小企業では地元のつながりや口コミが重視されることが見えてきました。こうした分析からも、まだ関係性が構築できていない状態では架電による営業に限界があることがわかり、TCSは対面での営業を強化する方針としました。
顧客の所在は全国各所にあります。成約の確率が高い顧客への対面営業に人的リソースを配分する戦略にかじを切っても、人的リソースが大幅に増やせるわけではありません。また、インサイドセールスの体制を縮小する方針としたものの、中長期的な成長や事業目標のためには、インサイドセールスで行ってきたアプローチ数の確保や継続接点の確保も依然として必要な状況でした。

図1:課題整理により「顧客接点の見直し」に着手
そこで、NTTデータはTCSの受注までの一連の業務の流れを整理し、個々の業務ではなく営業活動全体のプロセスを構造化して課題を抽出。新たな体制・営業プロセスへの転換によって人的リソースが不足する領域への生成AI活用を検討しました。これまでよりも負荷が大きくなることが想定される対面営業では自動化による業務効率化や支援的な役割を、縮小するインサイドセールスでは人に代わるエージェントとしての役割を担わせる方針としました。また、ターゲット顧客の選定プロセスにおいては、より受注確率の高い顧客を効率よく、高い精度で抽出するための方策を検討しました。このように、一連の営業活動の各プロセスで生成AIを活用することで営業生産性が向上するのではないかという仮説を設定し、その実用性を検証しました。

図2:課題解決に向けたアプローチ選定
検証1:生成AIを活用した提案書作成自動化による稼働削減と提案品質向上
今回のPoCは、営業活動の流れに沿うと、「建物情報調査の自動化による優良リード発掘精度向上」(検証2)、「AIエージェントを活用したインサイドセールス代行」(検証3)、「生成AIを活用した提案書作成自動化による稼働削減と提案品質向上」(検証1)の3つからなります。
「生成AIを活用した提案書作成自動化による稼働削減と提案品質向上」(検証1)は、営業社員が提案書を作成する際の稼働削減と、新任者が営業活動を行う際の「質の平準化」をめざし検証を行いました。
まず、提案書作成プロセスと課題を整理します。営業プロセスの中で提案書を生成する業務は、顧客情報の取得状況によって3つに分かれます。1回目はまだ顧客情報がほとんど入手できていない初回訪問前、2回目は初回訪問した顧客との折衝中、3回目は顧客のニーズを確認した後の正式提案です。
元々、TCSでは営業社員向けに標準の提案書テンプレートを用意しており、顧客情報の調査やヒアリングした情報を踏まえてカスタマイズしながら使用していました。中でも最も時間を要していたのが、提案内容をどのように伝えるか、そのストーリーを補強するためにどのような調査が必要かといった提案ストーリーの検討・作成です。慣れた営業社員でも1件あたり2時間半程度の時間が掛かっていました。また、顧客情報の調査や検討の品質が担当者の経験やスキルといった熟練度に左右されてしまうことも課題でした。
そこで、期待される効果などの算出や、顧客ごとに異なる数値を用いた計算、CRM等に登録された情報の利用を自動化。生成AIが提案ストーリーの検討を補助し、アドバイスをくれる先輩社員のような役割を担うことで、提案書作成の稼働を効率化し、顧客対応に稼働を充てられるようにしました。
具体的には、以下のようなプロセスで提案書の作成と最終化をしていきます。まず1回目の初回訪問では、ほぼテンプレート通りの提案書を提示します。2回目の訪問では、1回目の訪問時に顧客と対話する中で得られた情報をPowerPointのアドインコンソールを使って入力し、提案書を自動的に書き換えて顧客に提示します。この時は、初回訪問時よりも、より具体的な課題の提示、期待効果の訴求ができます。正式提案となる3回目の訪問では、社内に蓄積するこれまでの訪問履歴や商談結果から作成した見積もり情報を元に費用を算出するとともに、顧客と合意した内容を踏まえて営業社員が手動で提案書を並び替えるなど手を加えて、提案書を最終化します。
提案書内の顧客の電力使用に関する基礎数値や、そこから想定される経済性・環境性といった効果数値は、正確性が求められるため、あらかじめプログラムされた計算式を使用して算出します。さらに、生成AIがロジックに基づいた顧客情報の調査や、スクリプト・助言を作成します。この時、営業担当者が現場で感じたことを柔軟に提案書に反映できるようにすることで、生成AI活用の実用性が高まるようにしています。
もう1つ考慮したのは、提案書の自動作成ツールとして、PowerPoint上で操作できるアドインコンソールを選定した点です。デジタルツールを導入してもあまり活用されていないというのは、実はよくあることです。特に、顧客ニーズに合わせた臨機応変な対応が求められる営業領域においては、提案書作成ツールを活用する必要性や効果が感じられにくく、定着化が課題でした。そのため、営業社員が普段から使用しているPowerPoint上で操作できるツールを活用し、定着化のハードルが下がることを期待しました。
検証の結果、提案書の自動生成については、グラフや表の表現も含めテンプレートの全10ページが高い精度で実現できていました。特に、現場の営業担当者からは、2回目訪問時の顧客への訴求力が高まる可能性があるとの評価がありました。また、提案ストーリーやスクリプト作成に関しては、顧客情報の調査結果や顧客メリットを踏まえて作成できていることを確認しました。こうした提案ストーリーやスクリプト生成は、新任の営業社員を含めた組織全体の営業力強化につながることが期待されます。実用の際には、その目的に応じた情報や精度を見極めながら、さらなる検討、検証を実施していくことが必要です。
検証2:建物情報調査の自動化による優良リード発掘精度向上
「建物情報調査の自動化による優良リード発掘精度向上」(検証2)についても検証を行いました。これまでは、優良顧客を特定するために建物を1件ずつGoogleマップ上で確認する作業に毎月120時間程度をかけ、ターゲットリストから提案の対象外となる顧客を除外していました。そこで、優良リード発掘に関する稼働を効率化し、収益性の高い顧客を抽出することで、アプローチすべき顧客を明確化することをめざしました。
案件の収益性に関わる最も大きな要素は、太陽光設備の設置規模です。太陽光設備の設置可否は、建物が設置されている場所や築年数、屋根の形状や方角、使われている材質により分かれるため、独自の航空写真とその2D・3D解析が可能なツールを活用し、条件に合致する建物を自動的に抽出できないか、検証を行いました。また、NTTデータには地図や位置情報活用を専門にしている部門があるため、建物登記を活用した情報精度の向上やアプローチ先の検出の可能性も探りました。
検証は、ツール活用による効率化の検証と、ターゲット調査による抽出効果の検証の2段階で実施しました。手動による調査方法と比べて、ツールを活用した調査では、これまで取得できなかった建物所有者や構造データ(屋根素材や形状)、築年数、既存のパネル設置年数等の情報が取得でき、根拠のある情報となることを確認しました。優良顧客発掘の精度向上については、成果の算出方法の複雑さもあって具体的な効果の確認までは至りませんでしたが、自動化により月120時間程度の調査稼働を削減する可能性や、一定エリアを網羅的に調査することによるポテンシャル顧客発掘件数の向上効果を確認できました。また、太陽光パネルの設置年数情報から、新たなターゲット層としてリプレイス提案先の抽出が可能となることも確認しました。
検証3:AIエージェントを活用したインサイドセールス代行
「AIエージェントを活用したインサイドセールス代行」(検証3)では、これまで実施していた広いセグメントでの顧客ニーズの確認や、リソース不足で実行できていなかった未商談化顧客への継続的な接点の実現をめざしました。
太陽光設備サービスは、すでにレッドオーシャン市場であり、人手不足が原因で継続的な検討状況の追跡ができていないことで、競合に先を越される可能性が危惧されます。インサイドセールスでは、顧客のカーボンニュートラル検討状況や環境課題の感度、導入検討の状況を確認し、セグメンテーションすることを目的としています。そこで、架電用のAIエージェントを使用し、インサイドセールス対応を完全に自動化できるか検証しました。
実際にAIエージェントと会話した検証担当者からのフィードバックで最も多かった回答は「想像していたよりも自然」でした。対話型での自由な会話やイレギュラーな状況でも、ある程度柔軟な判断で意図したシナリオへ誘導する結果が確認できました。今後の実用化に向けては、AIからの架電に対するお客さまからの信頼性の担保が課題ですが、既に一度接触のある顧客からの資料請求のフォローアップや、契約済みの顧客の契約更新等のユースケースでは信頼性の懸念が低く、実用化の可能性が高いとの声がありました。顧客との関係性や目的に応じ、AIエージェント活用を検討していきます。
生成AIを活用し営業活動の高度化、効率化を実現する『LITRON Sales®』
TCSと行ったPoCでは、実ビジネス上で生成AIを適用できる領域を明らかにすることができました。生成AIの導入においては、まず動かして使ってみる、育てながらより適用の幅を広げていくことで、その効果を拡大していくことができます。NTTデータの『LITRON Sales』でも、このようにクイックにPoCを実施し、成果を見極めながら導入可能な領域から変革を推し進めて、成果創出まで伴走していく体制を整えています。
NTTデータは、このようなオフィスワーカーの生産性向上、付加価値業務へのシフトを推進するため、複数のAIエージェントが自律的に業務を実行するという生成AI活用コンセプト「Smart AI Agent®」を打ち出しています。

図3:NTTデータのSmart AI Agentコンセプト
ユーザーがオフィスワーカーの業務に最適化されたAIエージェントである「パーソナルエージェント」に指示を出すと、その先には、法務や経理、人事などの各種業務に特化した「特化エージェント」が複数存在しています。パーソナルエージェントは司令塔となり、指示された業務に関係する特化エージェントと連係。業務タスクを分析・抽出、整理・最適化して自律的に業務を実行するというものです。
このコンセプトに基づき、営業業務の効率化を実現するAIエージェントソリューションが「LITRON Sales」です。データ入力作業や、提案書準備、契約書作成、社内文書作成など、営業領域における各種業務を自律的に支援・代行します。
LITRON Salesについてはこちら
https://www.nttdata.com/jp/ja/lineup/litron-sales/
日本国内での生成AI事業を拡大し、積極的なAI活用の推進とガバナンスの両輪で顧客のビジネス変革を後押ししているNTTデータ。これからも労働人口の減少など社会課題解決に貢献するとともに、人が付加価値の高い業務領域に注力できる世界の実現をめざしていきます。
NTT DATAの生成AIサービスについてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/services/generative-ai/
NTT DATAのAIエージェントサービスについてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/services/generative-ai/ai-agent/
LITRON Salesについてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/lineup/litron-sales/
生成AIを活用した営業生産性向上PoCをテプコカスタマーサービスと実施についてはこちら:
https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2025/052601/
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