組織とマインドセットにも踏み込むスピード変革
――MUFGにおける企業変革、その方向性についてうかがいます。
上野氏:
2024年度からの中期経営計画は、「成長を取りに行く3年間」と位置付け、戦略の1つとして「企業変革の加速」を掲げました。その中でスピード改革の加速に1丁目1番地として取り組んできており、業務効率化だけではなく、顧客ニーズや市場の変化、新たな機会に迅速に適応する組織力の強化を図っています。不確実性の高い時代で、顧客のニーズも多様化・高度化しています。今後も、信頼して選ばれ続けるために、環境変化にスピーディーに対応し、社会の変化をリードする企業として一層の成長を目指したいと考えています。
瀬戸:
マスリテール市場の競争は既存銀行だけでなく、フィンテック企業にも広がりつつあります。こうした中で、MUFG様が競争優位を維持・強化していくためには、組織体制やマインドセットに踏み込むような変革が求められると考え、「SAFe」というフレームワークを用いたビジネスアジリティの高いアジャイル組織への進化をご提案してきました。

上野 義明 氏
三菱UFJフィナンシャル・グループ
常務執行役員 グループDeputy CSO

瀬戸 篤志
(当時)
NTTデータ
執行役員 金融イノベーション本部長
(現在)
NTT DATA, Inc.
Executive Vice President Head of JMNC
上野氏:
まさにそれが、MUFGが目指していることです。スピードを追求するためには、目に見える手続きなどルールの見直しだけでは不十分で、役職員の考え方や行動原理を含め、組織運営のあり方自体をアップデートしていく必要があると考えています。その中で、アジャイルの考え方に基づく組織運営が突破口となると考えました。
瀬戸:
NTTデータはかつて、キャッシュレス決済の多様化に対応するため、クレジットカードなどの決済プラットフォーム「CAFIS」事業を抜本的に変革した経験があります。ビジネスモデルやサービス設計、システム、業務プロセスなど広範な変革を実行しましたが、特に組織とマインドセットの転換は極めて重要な要素でした。CAFIS事業変革のストーリー、変革のフレームワークとして採用したSAFeの中身についてMUFG様に説明する中で、共感を得られたのではないかと考えています。
SAFeは経営、ビジネス、開発の3レイヤーが一体となったフレームワークです。大規模組織でも俊敏に進化できるよう、具体的なロードマップや実践的な手法が詰め込まれています。先進的なグローバル企業もSAFeを採用していますが、その一例が、私たちがアジャイル変革を支援したスペインの大手銀行BBVAです。
NTTデータの実績を評価し変革パートナーに選定
――NTTデータにコンサルティングを依頼した経緯や、選定のポイントはどのようなものでしたか。
上野氏:
アジャイルの実践にあたっては、MUFGではアジャイルの考え方や取組みの経験が十分ではないと感じていました。今後の戦略を考えていく上でも、まずはフレームワークに基づくアジャイルの実践経験を積むこと、その経験を通じた社内での理解醸成と「型」の習得が必要と考えました。NTTデータ様はSAFeを提供するScaled Agile社のパートナーであり、CAFISなど自社の事業・サービスにおいてアジャイルな組織運営を実践しています。アジャイルの導入支援を行うコンサルティング会社の中でも、一定規模の自社事業にこのフレームワークを適用した経験を持つ企業は少ないと思います。このような自社での取り組み実績とBBVAのようなグローバル企業などのお客さまの支援実績を踏まえた適切なサポートを、NTTデータ様に期待しました。
瀬戸:
SAFeを使いこなす上で、いくつかの課題があります。例えば、既存部門のリソースが足りなくなったとき、新しい挑戦のためにアサインした優秀な人材を元に戻したくなりますが、この誘惑にいかに向き合うか。あるいは、価値創造にフォーカスしたネットワーク型の組織に権限を移す場合、従来のルールとどう折り合いをつけるか。NTTデータも悩みながら、全体にとって最適な「着地点」を探りつつ変革を進めてきました。そうした経験の中で培ったノウハウをもとにMUFG様に提案しています。

NTTデータは、シームレスにチームを構成し、経営層~推進チーム~現場を一体に支援する
アジャイル運営の輪を広げ、組織全体を変革する
――MUFGにおいては、具体的にどのような取り組みが進められているのでしょうか。
上野氏:
2025年1月、アジャイル変革の推進のため、CoE(Center of Excellence)機能として経営企画部内に「アジャイル変革推進室」を設立しました。そして、特にサービスの継続的な改善が必要となる領域でアジャイル運営の取り組みを開始しています。アジャイル運営の実践は始まったばかりで検討すべき課題も多いですが、実際にアジャイル運営に携わっているメンバーの反応は極めてポジティブです。部署間の連携、ビジネス目標・ビジョンへの共通認識の形成などについて「改善が期待できる」とのコメントが8割を超えています。
瀬戸:
貴社内でのポジティブな評価は、伴走者として大変心強いですね。
上野氏:
組織間の横の連携や意思疎通に時間を要することも多いと感じていましたが、アジャイル運営により、当初の想定と異なる事象が生じても、組織の調整コストを低減し、迅速に適応していくことができる期待感があります。また、今推進しているパイロットの1つでは、機能を最小限にして開発単位を小さくすることで、システム提供までの期間を従来の50%程度に短縮できる見通しもあります。これからアジャイル運営の全社展開を進め、お客さまへの提供価値の向上につなげていきたいと考えています。
――NTTデータから受けている支援は、具体的にどのようなものですか。
上野氏:
CoE機能が担うべき役割、パイロットの進め方などで伴走型の支援を受けています。フレームワークの基本に沿いつつ、組織や人材状況などMUFG固有の事情を考慮した提言やコーチングを提供してもらっています。自社事業での適用実績や、グローバル企業におけるアジャイル運営導入の経験に基づく知見とノウハウに基づいた、今後どのような障壁が発生し得るか、乗り越えるには何が肝になるのかといったアドバイスは、MUFGにとって大変貴重なものです。
瀬戸:
私たち自身が様々な困難に直面し、それを自分事として克服する経験を繰り返してきました。だからこそ、実践的で充実した伴走支援ができるのだと思っています。
提供価値向上に向けさらなる展開を
――MUFGのアジャイル変革について、今後はどのような展開を考えていますか。
上野氏:
アジャイル運営の導入はまだ途に就いたばかりで、運営方法の整理・改善を繰り返しつつ、組織内での実践領域を拡大していく方針です。足元でも複数の領域でアジャイル運営開始の準備をしています。成功事例や成果が積み上がれば、アジャイル運営の輪が広がり、従業員の考え方や行動も変わるでしょう。その結果として、お客さまや社会に対して提供できる価値が高まり、従業員のエンゲージメント向上にもつながるように取り組みを一層促進していく考えです。
瀬戸:
MUFG様のスピード改革の全社展開を引き続き全力でサポートします。そのためには、サイロ化された組織間の対話を促し、アジャイルの考え方をMUFG様内の共通言語として定着させるとともに、現場で起きている事象をデータとして捉える視点が不可欠。当社はMUFG様のビッグデータ基盤「OCEAN」(※1)の構築も支援しています。また生成AI(※2)などの新技術も使い、改革が経営に与えるインパクトを分析し、経営における意思決定をよりスピードアップする――そうした世界をMUFGの皆さんとともに実現したいと考えています。
そして、当社自身もグローバル企業として、MUFG様のスピード改革が海外展開される際にも、信頼いただけるパートナーになれると自負しております。

※本記事は日経ビジネス電子版に掲載した内容を許諾を取って掲載しています。
MUFGのスピード改革を支えるNTTデータ(ロング)(4:05)
報道発表「大規模アジャイルフレームワークSAFe®を提供するScaled Agile社のPlatinum Tier Global Transformation Partnerに認定」についてはこちら:
https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2024/100301/
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