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2025.7.25業界トレンド/展望

IT業界脱炭素のカギとなるカーボンフットプリント

全世界で加速する脱炭素の取組み。IT業界も例外ではない。IT活用による温室効果ガス排出量の削減は当然期待される一方で、IT機器の製造やITの電力消費による排出量の削減も求められている。そんな中、これまで気にされてこなかったITシステムそのものを構築する過程で排出される温室効果ガス―すなわちITシステムのカーボンフットプリントに世界の注目が集まっている。本稿ではITシステムのカーボンフットプリントを取巻く最新動向と取組みを紹介する。
目次

脱炭素の重要性が高まるIT業界

世界中で脱炭素に向けた取組みが進捗しています。2025年1月のトランプ政権の発足により脱炭素に向けた取組みに逆風が吹いていますが、多くのアメリカ大手企業、大学や州/市などからなるAIAI(America Is All In)(※1)が連邦政府の方針に関わらず気候変動対策を継続する旨の声明を出すなど、気候変動対策の重要性は変わっていません。

日本でもパリ協定に基づき2025年2月にNDC(国が決定する貢献)がUNFCCC(国連気候変動枠組条約)に提出され、2035年度に2013年度比で60% GHG(温室効果ガス:Greenhouse Gas)を削減するという野心的な目標が設定されるなど、脱炭素に向けた取組みのさらなる加速が求められています。

これまでは排出量が多い業界として製造業の取組みが先行してきましたが、最近では特にAIの急速なニーズ拡大もあり、IT業界からの排出量に注目が集まっています。世界のデータセンターの年間電力消費は2030年には2024年から倍増し、日本全体での電力消費を上回る量になると予想されています(※2)。IT業界のGHG排出は電力消費に起因するものだけでなく、データセンターの建造やその内部のサーバー類、ユーザー端末、ネットワーク機器などの製造/廃棄の過程で排出されるものも無視できません。IT業界が排出するGHGは世界全体の4%を占めるとも言われています(※3)

(※1)

AIAI:アメリカ人口の約2/3、GDPの3/4を代表するアメリカ最大級の気候変動団体

(※2)

IEA(国際エネルギー機関)は2024年のDCの消費電力は世界全体の約1.5%にあたる415TWhで、2030年には約945TWhに倍増すると予想している。「Energy and AI – Analysis - IEA

(※3)

研究により1.5%~4%まで幅がある。「Measuring the Emissions and Energy Footprint of the ICT Sector: Implications for Climate Action

ITシステム脱炭素化のカギ:カーボンフットプリント算定

そんなIT業界で今注目を集めているのが、ITシステムのカーボンフットプリントという考え方です(※4)。カーボンフットプリントとは原材料の採掘から廃棄に至るまでのライフサイクル全体で排出されるGHGの総量を意味します。「計れないものは管理できない」という言葉もありますが、IT業界の排出量削減に向けて、まずは一つ一つのITシステムの排出量を算定しようというのです。

IT業界以外でもITシステムのカーボンフットプリントのニーズが高まっています。近年では世界中で多くの企業がGHGプロトコル(温室効果ガス排出量を算定・報告するための国際的な基準)に従って企業のGHG排出量を算定・開示しています。GHG排出量はいくつかのグループに分類されますが、その一つが購入した製品・サービスの製造過程での排出量で、現在多くの企業ではPC1台につき0.5トンのCO2、というように業界平均値を使って算出しています。

業界平均値での算出は比較的容易で大まかな傾向を把握するのには良いものの、実際の削減アクション(例:製造時の排出量が少ないPCへの切替)が算出される排出量に反映されないため、実際にサプライヤから得られる個別の排出量データに置き換える動きが始まっています(※5)

このGHG排出量のグループの対象には企業が購入するITシステムも含まれ、ここで使われるのがカーボンフットプリントです。カーボンフットプリントはライフサイクル全体からの排出量ですが、この用途では製造過程のみに絞って算定することになります。ITシステムを購入する企業は製造により排出された実際のGHGを把握することで、排出量削減の優先順位を決められる、ベンダー選定の判断材料にできる、カーボンクレジットを使ってオフセットしている場合には過剰にクレジットを購入せずにすむ、といった恩恵が受けられます。

(※4)

ヨーロッパ最大のIT領域のグリーン化を推進する団体であるEuropean Green Digital Coalitionでは2024年4月にITソリューションが与えるGHG排出量への影響をアセスメントする方法論を発表しており、この方法論の主なフォーカスはIT活用によりGHG排出量がどう変わるかであるものの、IT自身のカーボンフットプリントは全体的な評価を左右する重要な指標とされている。「Net Carbon Impact Assessment Methodology for ICT Solutions - European Green Digital Coalition

(※5)

サプライヤから入手した排出量データ(=1次データ)利用の拡大のため、2025年3月に環境省がガイドを公開している。「1次データを活用したサプライチェーン排出量算定ガイド

グローバルで本格化する標準化の波

注目を集めるITシステムのカーボンフットプリントですが、実はまだグローバルで確立された算定標準がありません。業界/製品によらずに使用可能な製品カーボンフットプリントの算定標準としてはISO14067、PACT Methodology、GHGプロトコル-製品スタンダードなどがあり、特定業界に特化した標準としてはCatena-X PCF Rulebook(※6)、TfS PCF Guideline(※7)などがあります。一方で、IT業界あるいはITシステムに特化した標準で広く知られたものは存在しないのが現状です。

IT業界における主要な標準化の取組の一つにGreen Software Foundationが開発したISO/IEC 21031:2024のSoftware Carbon Intensityがありますが、こちらは運用に起因する排出量観点でソフトウェアを比較する指標でありカーボンフットプリントとは用途が異なります(※8)。また、ITU-Tでは“ソフトウェア製品のカーボンフットプリントのアセスメントのためのガイドライン”を標準化する動きがありますが、2025年7月時点ではまだ提案段階のステータスです(※9)

日本でもカーボンフットプリント算定を標準化する動きがあります。「ソフトウェアに関するカーボンフットプリントの製品別算定ルール」が、NTT DATAを含むNEC、日立、富士通、NTTといった業界の主要企業の連携により開発・公開されています(※10)。2025年7月時点では受託ソフトウェアの原材料調達~製造工程のみが対象であり、すべてをカバーする標準ではありませんが、対象スコープの拡大、標準のグローバル化といった活動が継続されています。

(※6)

欧州初の自動車業界向け算定ルール「Catena-X PCF Rulebook

(※7)

化学業界のグローバル業界団体であるTfSが策定した算定ルール「TfS PCF Guidline

(※8)

Software Carbon Intensityは3つの構成要素からなり、それぞれを小さくすることでソフトウェアをグリーン化できる。E:消費電力、I:炭素強度(使用した電力に起因する排出量の多さを表す)、M:Embodied Carbon(ハードウェアの製造~廃棄までのライフサイクル全体での排出量を使用量に応じて配分したもの)。Green Software Foundationが仕様を策定・公開している。「Software Carbon Intensity (SCI) Specification

(※9)

2024年6月に、ITU-T(国際電気通信連合の通信標準化部門)の「環境と気候変動に関する研究グループ(Study Group 5)」に提案された「Guidelines for the assessment of the carbon footprint of Software Products

(※10)

経産省、環境省によって作成されたカーボンフットプリントガイドラインに準拠するルールとして日本LCAフォーラムから公開されている「ソフトウェアに関するカーボンフットプリントの製品別算定ルール

始まりつつあるITシステムのカーボンフットプリント算定

GHG排出量を算定・開示する企業が増え、算定・開示の次ステップとして削減を進めるため、より精度の高い排出量情報をサプライヤに求める企業が増えつつあります。こうした流れはITシステムも例外ではなく、ITベンダーに対しても、顧客からカーボンフットプリントの提供を求めるケースが増え始めています。

NTT DATAでは、意図に賛同してご協力いただけるお客様を中心に上述の「ソフトウェアに関するカーボンフットプリントの製品別算定ルール」に準拠した形で排出量情報を提供する取組みを始めています。お客様は業界平均値ではなく実際の排出量情報を得ることで、削減努力を開示排出量に反映することが可能となり、また将来の削減に向けた具体的なアクションを描けるようになります。

NTT DATAは、カーボンフットプリントの提供にとどまらず、お客様により安心してご活用いただけるよう上記ルールのスコープ拡大やグローバル対応、さらには第三者による検証取得といった取組みを推進してまいります。

脱炭素の取組みがあらゆる場面で求められる中、これまで注目されることのなかったITシステム製造時の排出量にも関心が高まっています。少し先のサステナブルな未来では、ITシステムのカーボンフットプリントが当たり前に活用される社会が訪れていることでしょう。

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