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2025.7.14技術トレンド/展望

オープンソースでAI時代のデータ主権を実現する

クラウド時代において、組織や個人が自らのデータに対する完全な統制権を求める「データ主権」への関心が高まっている。外部クラウドサービスへの依存を避け、データの保存場所や管理方法を自律的に決定できるソブリンクラウドの市場は2027年に2,585億ドル(約37.5兆円)規模に達すると言われている。この需要に応える解決策として、自己ホスト型オープンソースの「Nextcloud」が注目を集めている。完全なデータ管理、柔軟な共有、統合コラボ機能、高いセキュリティを提供し、欧州の政府・教育機関などで広く採用され、データ主権・ソブリンクラウド実現の有力な候補となっている。
目次

近年、企業や個人の間で「データ主権(Data Sovereignty)」という概念が注目を集めています。クラウドサービスが広く普及する中、データがどこに保存され、誰にアクセスされるのか、という課題は無視できません。特に欧州のGDPR(一般データ保護規則)をはじめとした法的要件が強化される中、自己のデータを自ら管理・制御したいというニーズが高まっています。

IDCによると、データ主権を実現するソブリンクラウド(Sovereign Cloud)のマーケットの予測として、2027年に2,585億ドル…実に日本の国家予算の1/3にも達すると予想されています。

図1:「IDC Forecasts Worldwide Sovereign Cloud Spending to Reach More Than $250 Billion in 2027」(2023年12月13日)よりhttps://my.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prEUR251542423

この図から需要の急成長が見て取れます。
このような状況において注目されているのが、ソブリンクラウドによりデータ主権を実現するNextcloud®(ネクストクラウド)(※1) です。

AI時代のデータ主権を実現するオープンソースのNextcloud

Nextcloudは、オープンソースで提供されている自己ホスト型のクラウドストレージ・コラボレーションプラットフォームです。DropboxやGoogle Driveと同様の機能を持ちながらも、企業のデータセンタやユーザー自身のサーバーにインストールして利用できる点が大きな特徴です。

2016年にownCloudから分岐する形で登場したNextcloudは、プライバシーとセキュリティを重視した設計がなされており、欧州を中心に官公庁や教育機関、企業などで広く導入されています。また、最近はAIアシスタント機能が搭載され、OllamaなどのローカルAIと組み合わせることで、高い秘匿性を維持しながらAIの利便性を活用できるプラットフォームとしても注目されています。Google Trendsの傾向を見ると、右肩上がりで急激に伸びているのが分かります。

図2:引用:GoogleTrends(https://trends.google.co.jp/trends/

主な特徴と機能

1.自己ホストによる完全なデータコントロール
ユーザー自身が管理するサーバー(オンプレミスやプライベートクラウド)にインストールすることができます。これにより、データがどこに保存されているかを正確に把握でき、クラウドプロバイダーに依存しないデータ管理が可能になり、真のデータ主権を実現することができます。

2.柔軟なアクセス管理とセキュリティコンプライアンスへの対応
ファイル共有やアクセス制御は非常に柔軟で、ユーザーやグループごとに詳細な権限設定が可能です。外部ユーザーへの一時的な共有もサポートされています。また、エンドツーエンドの暗号化、二要素認証、監査ログなどを標準または拡張機能として提供し、GDPR、HIPAA、FERPAなどのコンプライアンス要件にも対応可能です。

3.統合型コラボレーションツール
Nextcloudは単なるストレージだけでなく、次のようなアプリを追加することで統合的なワークスペースとして活用できます。

  • Nextcloud Talk:ビデオ会議とチャット機能
  • Nextcloud Office(CollaboraやOnlyOfficeと連携):オンライン文書編集
  • カレンダー、タスク、メール、ホワイトボードなどのグループウェアアプリ

そのほか、Nextcould App Store(https://apps.nextcloud.com/)でさまざまな追加アプリケーションが公開されており、これらのアプリケーションを導入することにより、機能のカスタマイズを行うことができます。

4.AIアシスタント機能を提供
AIによる文書作成の支援、特定の文書に対する対話的な分析と知識を活用した新規文書の作成、ミーティング音声のテキスト化など、AIによる支援を幅広く受けることができます。また、OpenAIなどのクラウド型のAIモデルだけでなく、ローカルモデルによりオンプレミス内で全てのAI処理を完結させることもできます。

5.オープンソースライセンスAGPL v3による提供
AGPL v3と呼ばれるオープンソースライセンスの中で最も制限が厳しいライセンスで提供されています。
他社がNextcloudを改変して自社クラウド(SaaS)サービスとして提供した場合、変更したコードを公開する必要があり、コミュニティへのフィードバックが促進されるようになっています。

Nextcloudによるデータ主権の確立

Nextcloud最大の魅力は、「データはユーザー自身のものである」という思想に基づいて設計されています。クラウドサービスの利便性と、オンプレミスの制御性を両立できる点で、データ主権の確保を目指す組織にとって理想的な選択肢となります。
例えば、国や自治体が自国内でデータを管理したい場合や、企業が機密性の高いプロジェクトを外部に預けたくない場合など、Nextcloudは自身でデータを管理、トレースできる透明性によって、真の意味でのデータ主権を提供します。

導入事例と広がるエコシステム

ドイツ政府やフランスの教育機関など、欧州を中心に数多くの公的機関がNextcloudを導入しています。また、Red Hat、IBM、Canonicalなどとの協業により、LinuxやKubernetesベースの環境との親和性も高く、クラウドネイティブな運用にも対応できます。
さらに、活発なコミュニティとNextcloud社(Nextcloud GmbH)とパートナーによる商用サポートもあり、導入から運用、トラブル対応まで安心して進められます。

具体的な導入事例として下記のようなプロジェクトがあげられます。

  • ドイツ連邦政府
    ドイツ連蔵政府では、Bundescloud(連邦クラウド)と呼ばれる連邦政府専用のプライベートクラウドを利用しています。Nextcloudは、このBundescloudで採用され、税関・省庁など約300,000ユーザーに利用されています。
  • オランダ ZGT病院
    オランダの総合病院ZGTが、年間50万件超の外来・入院データを安全かつオンプレミスで管理するためにNextcloudを採用しています。EU/オランダの厳格なプライバシー規制にも完全適合し、ベンダーロックインから解放されたデジタル主権を実現しています。
  • セルビア共和国 国民議会
    セルビア国民議会が、これまでVPN+SMBで運用していたファイル共有をNextcloudに刷新。ユーザビリティ向上とIT運用負荷軽減を図りつつ、法令順守型のオンプレミス基盤を構築しました。
  • フランス 教育機関(SIB)
    フランスブルターニュ地方のイル=エ=ヴィレーヌ県内の57校の中学校(教員2,500名、生徒33,000名)でNextcloudがオープンソースの文書編集システムであるCollabora Onlineと共に導入されました。リモートアクセスや多端末対応、共同編集・共有機能を提供し、教育現場のファイル運用を刷新しました。

フェデレーションとデータ連携

ほかの組織のNextcloudと連携するためのフェデレーション機能(※2)も提供されており、データ主権を保ったままデータ連携を簡単に行う機能を提供しています。

また、AIを利用したツール連携のインタフェースであるMCP(Model Context Protocol:複数のエージェント・モデルが連携するためのプロトコル)が有志により実装されており、NextcloudプロジェクトのGitHubでも実装に向けた議論が始まっています。MCPのインタフェースが提供されることにより、MCPに対応したAIエージェントからNextcloudのデータや機能が簡単に連携できるようになります。

Nextcloudは、自律分散型の企業間データ連携の仕組みを定義する団体Gaia-Xの初期メンバとしても参画し、データ連携の標準であるデータスペースのコネクタもサードパーティにより提供されています。(※3)

まとめ

ITシステムは、外部サービスの利用が主流となり、そのブラックボックス化が進む中、「誰が、どのように、どこで」データを扱っているのか、データの透明性を担保することが改めて重視されるようになっています。Nextcloudは、オープンで自由、かつセキュアなクラウドプラットフォームとして、「データ主権」の実現を目指すすべての個人・組織にとって強力な味方となるでしょう。

(※1)

NextcloudはNextcloud GmbHの登録商標です。

(※2)

フェデレーションとは、複数の異なるサービスやシステムを相互に運用することを指し、一般的には特にアカウント認証の連携のことを指します。

(※3)

データ主権を実現するためのデータ交換の仕組みである「データスペース」については、筆者による記事そのデータ本当にあなたのものですか?~データスペースによるデータ管理の革命とその可能性~をご覧ください。

そのデータ本当にあなたのものですか?〜データスペースによるデータ管理の革命とその可能性〜についてはこちら:
https://findy-tools.io/articles/ntt-dataspace/54

NTTデータ、GAFAMや中国企業に対抗する欧州のデータ共有基盤を、東京大学にあるデータスペースのテストベッドに実装 その狙いとは?についてはこちら:
https://atmarkit.itmedia.co.jp/ait/articles/2410/11/news100.html

産業データの安全な流通を実現する総合サービス「X-Curia™」の本格展開を開始についてはこちら:
https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2025/063000/

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